本作品は今から百年くらい昔の日本の里山が舞台です。
そこには今よりも身近に多くの動物や昆虫達が住んでいました。
日本の里山の風景をより一層際立たせるのに効果的に使われているのがこの小さな生き物たちです。ほとんどが八代監督自身によって作られており、姿かたちのリアルさよりも動きの印象や生で見た時の印象を重視して作られています。

コマ撮りアニメでは本物の水は使わず、他の素材を水に見立てるなど水を表現するために様々な手法を取るのが一般的です。しかし今回は風景としての川らしさを出したいと言う思いからあえて本物の水を使った撮影にトライしました。 ポンプで汲み上げて水を循環させる仕掛けを作り、スローシャッターで流れる水をうまく映るようにしたり、水の流れを強調させるため水中モーターを要所要所に沈めたりと様々な試行錯誤がありました。
結果的にキラキラ反射する感じや、空の映りと水の中が半々に見える感じなど、本物の水を使った甲斐のある表現ができました。

古民家のセットは室内撮影用と外観撮影用と2種類作りました。 日本各所の博物館に展示してある古民家を見たり資料を調べても、地方によって違ったりするので最後まで分からないことが多く大変苦労しました。
作るうえで意識したのは、新築された家が長い年月使われて、壊れて、直して、削られて、風化して、そこから出てくる木造の古い家の味わい。その魅力を観た人に伝えることが出来たらと願いながら作りました。
室内のセットは、カメラの置く場所とアニメーターの立ち位置(人形に手が届く所)を考慮し、要所要所の壁を取り外せるような作りになっています。

江戸時代から明治の初めという設定から外れないようにしましたが、キャラクターの雰囲気をあらわすシルエットを大切にしています。
加助であればちょっとたくましくガツっとした印象に、兵十であればちょっと弱々しくなよっとしまだ若い雰囲気とか。ただし、くたびれた布の質感でその時代の貧しい洋服を作るのではなく、衣装としてはちょっと素敵に見えるようにアレンジしています。

実物の5分の1~6分の1前後のスケールで作られる美術では、出てくる小物類もすべて同じスケールで本物のように作らなければなりません。
それはまず素材探しからスタートし、そして作り方の模索と、常に試行錯誤の繰り返しが日々行われました。

一秒間に十二または二十四コマの動かしで、自然な動きに見せるストップモーションアニメ。正しい動きを再現するだけでは生き生きとした動きは生まれません。
素敵な動きをつくるために、アニメーターである監督は自らその動きを事前にやってからアニメーションを行っています。
何度もスキップして動きを確かめた監督は「こんなに本気でスキップしたのは生まれて初めて!」と肩でハアハア息をしていました。

人形のかしら(頭)は木彫りで製作しています。木は、木目もあり削りづらく、さらに堅く、割れやすい。表面的に、狙った形体を作るのには制限が多い素材ですが、その分作り手を試す素材。
数ある素材の中で魅力ある人形にしたいと考えた時、人形は木で作ることを選びました。
例えば生身の役者なら、若者が演じれは若者の、老人が演じれば老人の魅力を感じさせることができます。
木は、作っていく過程で、壊したり、汚したり、劣化させるようなな負荷をかけても最後まで残る味わいがあります。そうやって作った木の質感は、人間が年齢を重ねた魅力と通じるところがあると思っています。